キプロス深層、地中海に足場を求める露 [EU]

                                (感想) シリアの軍港が危うくなりつつあるロシア。
                                        ロシアを頼みとしたいキプロス。
                                      EUとIMFが、ロシア排除に動く様子。
                                    金融と軍事が表裏一体の現実が見え隠れする。


ルール無用のキプロス救済 ロシアの大口預金踏み倒し
    2013年03月25日 17:30  木村正人

http://blogos.com/article/58799/

■ 超法規的措置は許されるか

ユーロ圏や国際通貨基金(IMF)から100億ユーロ(約1兆2300億円)の支援を受ける代わりに国内金融機関の全預金に一律、税金をかけ58億ユーロを捻出する救済案を拒否したキプロスは、同国第2位のライキ銀行を解体、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)の大口預金を踏み倒し問題の58億ユーロを穴埋めすることでユーロ圏、IMFと合意した

英紙フィナンシャル・タイムズが伝えた。

欧州中央銀行(ECB)は25日までに58億ユーロを調達する代替案で合意できなければ、キプロス最大手のキプロス銀行とライキ銀行への緊急流動性支援を打ち切ると最後通牒を突きつけていたが、最悪の事態はとりあえず回避された。

26日にはキプロスの金融機関は10日ぶりに再開するが、10万ユーロ(約1230万円)以上の大口預金者について資本逃避を防ぐため、引き出しや送金を規制する。

EUは(欧州連合)は基本法・リスボン条約で(1)商品(2)人(3)サービス(4)資本の移動の自由を認めている。特に、資本の移動については、加盟国間だけでなく、加盟国と第3国との間でも制限することを禁じている

当初の預金課税案は、本来なら法的に保護されている10万ユーロ未満の小口預金についても6・57%を一時的に課税する「禁じ手」だった。

しかし、最終的にまとまった銀行分割と大口預金踏み倒しのための資本規制はEUの基本理念に反している。

これまでEUは構造的欠陥を抱える単一通貨ユーロを守るため、他の加盟国の財政赤字を肩代わりしないというリスボン条約の「非救済条項」などを次々と反故にしてきた。

10万ユーロ未満の小口預金への課税はまだ「違法」で済まされるかもしれないが、資本規制はリスボン条約違反、明らかな「違憲」と言わざるを得ない。

ECBによる国債の無制限購入でひとまずユーロ危機を脱し、金融危機のリスクが遠のく中、明らかに「違憲」な資本規制が、危機回避のための「超法規的措置」として許されるのかどうか大きな疑問を残す。

英誌エコノミストが主張するようにESM(欧州安定メカニズム)を通じて救済する方が、信用不安の火種を残さずに済んだのではないだろうか。

■ 銀行解体

42億ユーロの預金を持つライキ銀行を10万ユーロ未満の小口預金とそれ以上の大口預金に分割。小口預金は全額保護するため同国最大手のキプロス銀行に移す。大口預金はバッド・バンクに移して、全額踏み倒す。

キプロス銀行についても10万ユーロ以上の大口預金は凍結するとみられている。

IMFの資産では大口預金者は預金の20%以上を失うことになる。当初の銀行課税案で、小口預金者が負担するはずだった20億ユーロを大口預金者に肩代わりさせた格好だ。

キプロス救済のモデルは、2008年の世界金融危機で金融システムが破綻したものの、その後、V字回復したEU非加盟の島国アイスランドだ。アイスランドの金融資産は国内総生産(GDP)の10倍、キプロスの場合は8倍に達していた。

アイスランドは世界金融危機で国内銀行大手をすべて国有化し、グッド・バンクとバット・バンクに分割。優良資産をグッド・バンクに移して国内預金者を保護するための資金を確保した。その一方で、英国やオランダの預金者を含めて国外債権をバット・バンクに集めて踏み倒すという荒業を見せた。

アイスランド型を強く主張してきたのはドイツとIMFだった。

アイスランドは自国通貨を持つため、通貨暴落を利用して観光や輸出を促進、2011年には早くも2・9%のプラス成長に転じた。しかし、ユーロに縛られたキプロスに通貨安の追い風は吹かない。

待っているのは歳出カット、賃金カット、雇用削減など、ギリシャが進む辛くて厳しい「いばら(内的減価)の道」である。

■ トロイの木馬

米格付け会社ムーディーズによると、キプロスの預金の3分の1に相当する310億ドル(約2兆9400億円)がロシア資金だ

キプロス救済のためにいち早く25億ユーロを融資したロシアは、キプロスとユーロ圏、IMFの交渉からつんぼ桟敷に置かれた上、返済期限の延長と利子の減免を求められている。

キプロスは海底ガス利権を取引条件に、ロシアから追加の援助を引き出そうとしたが、頓挫した。返済期限の延長や利子の減免についても、キプロスのサリス財務相は「条件が調整されると思う」というだけで、どうなるかプーチン露大統領の腹一つだ。

キプロスはEU内でロシアの「トロイの木馬」と言われてきた。

2008年、コソボが独立を宣言した際、EUは独立を承認しようとしたが、キプロスはロシアの言い分を代弁するように独立に反対。ロシアが軍事介入したグルジア紛争でも、ロシアに制裁を加えようとするEUに反対した。

ロシア海軍は地中海に面したシリア西部タルトゥスの軍港を使用してきた。しかし、内戦の激化で使用できなくなる恐れがあり、できれば代替港をキプロスに置きたいと考えている

■ メルケルの「逆襲」

メルケル独首相との首脳会談で、プーチンは大型の愛犬を同席させてきた。幼い頃、犬にかまれた思い出があるメルケルにとっては、犬の存在は快くなかったに違いない。

今回の措置でロシアのオリガルヒはすでにラトビア、スイスなどに預金を移す動きを見せている。

強硬策には外交・安全保障でプーチンを牽制する狙いも含まれている。シリア内戦やイラン核問題の行き詰まりを打開するにはプーチンの協力が不可欠なのだが、メルケルの「逆襲」はプーチンを硬化させ、裏目に出る恐れが十二分にある。

(おわり)


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


キプロスで「オウンゴール」 冷え切る欧ロ関係
    Financial Times(翻訳) (3ページ)  2013/3/25 7:00 記事保存

http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM2205P_S3A320C1000000/

(2013年3月22日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 ロシアのメドベージェフ首相は21日、キプロス危機の解決策は「ロシアの組織も含むすべての利害関係者が参加」して検討しなければならないと強調した。

■ 相手の出方に激怒する双方    96958A9C9381959FE0E0E2E7828DE0E0E2E1E0E2E3E1E2E2E2E2E2E2-DSXBZO5309434022032013000001-PB1-15.jpg
モスクワで会議に出席した欧州委員会のバローゾ委員長=左=とロシアのメドベージェフ首相(3月21日)=AP  (写真)

 だが、予定されていたモスクワでの会議でメドベージェフ首相がバローゾ欧州委員会委員長の隣に座った時も、空気は明らかに「張り詰めていた」と西側のある外交官は言う。

 メドベージェフ首相はバローゾ委員長のスピーチの間ずっと「iPad(アイパッド)」で遊んでいるように見えた。欧州連合(EU)のある外交官によれば「メモを取っていた」らしいが。一方バローゾ委員長は、スピーチの重要なくだりでロシアを省略するかのように、「キプロスとユーログループ(ユーロ圏財務相会合)の関係者は協議を進め、解決策を見つけようとしている」と述べた。

 どちらも内心、激怒している。ロシア側は、キプロスの銀行の預金者――多くがロシア人――から58億ユーロの税金を徴収する100億ユーロ規模のキプロス救済案で、何の相談もなかったとしてEUを非難している。

 EUは、ロシア政府が18日に救済案を激しく非難したことがキプロス議会に否決の口実を与えた可能性があると腹を立てている。いずれにせよ同じ結果だったかもしれないが。

 ラジオ局「モスクワのこだま」の代表を務めるアレクセイ・ベネディクトフ氏は、「怒った」バローゾ委員長が局とのインタビューをキャンセルしたと言ったが、あるEU高官は誤解だと語った。

■ 希薄な関係に長引くダメージ

 アナリストは、双方に影響するキプロス問題の解決で当初から協力できなかったことは、EUとロシアの関係の希薄さを示す好例で、長続きするダメージを与えかねないと警告する。

 欧米寄りのロシア人識者でさえ、EUはキプロスの預金者への「課税」案で派手なオウンゴールを放ってしまったと言う。

 「欧州は大きな間違いを犯した。欧州全土の銀行システムへ不信感が高まった結果、次にどこかで危機が起きればすべての預金者が銀行から逃げ出すだろう」。ロシア中央銀行の元副総裁でモスクワの国立高等経済学院の経済学者セルゲイ・アレクサシェンコ氏はこう話す。

 同氏は今回の件でロシアとEUの関係が悪化するかどうかを聞かれ、「ないものを傷つけるのは無理」と皮肉った。

■ 歩み寄れなかったEUとロシア

 ソビエト連邦の最後の大統領だったゴルバチョフ氏が、ロシアと欧州諸国は協力して「欧州共通の家」を築かねばならないと述べてから四半世紀近くたつ。メドベージェフ首相は20日、英フィナンシャル・タイムズなど欧州メディアとのインタビューで同じ表現を使った。

 だが1991年のソ連崩壊以降、貿易やビジネスのつながりは急拡大したものの、政治や制度上の協力は限られてきた。極めて重要なエネルギー分野でさえそうだ。2006年以降に2度あったロシアとウクライナの価格論争がウクライナ向けのガス供給停止に発展し、さらに西のEU諸国にも影響する事態を双方は防げなかった。

 プーチン大統領より欧州びいきと見られるメドベージェフ首相は、2009年にEUと始めた「近代化パートナーシップ」は商業での協力をもたらしたとインタビューで述べた。だが大半の観測筋は、年に2回のEU・ロシア首脳会議はますます形骸化しつつあるようだと話す。

 モスクワにある米国カナダ研究所のセルゲイ・ロゴフ所長は、ロシアの対EU関係はある意味で対米関係よりも中身がないと指摘する。米国のケリー国務長官やヘーゲル国防長官にとってロシアはまだ優先順位が高いが、「キャメロン(英首相)やメルケル(独首相)、オランド(仏大統領)にとっては違う」と言う。

■ EUに背を向け「ユーラシア同盟」へ

 ユーロ危機によってロシアはもはや欧州をモデルとは見なさなくなった。実際、プーチン大統領を含む保守派は欧州を公然と軽蔑している。

 「プーチン氏は西側の民主主義に基づく市場経済が崩壊したと信じている」とアレクサシェンコ氏は言う。「だとすると、苦労して合意する必要がどこにある? キプロスに関する今回の決断は、プーチン氏にとって本当に大きな贈り物だ」

 シンクタンク、カーネギー国際平和財団モスクワセンターのドミトリー・トレーニン所長は、プーチン大統領はEUとの協力から手を引き始めたと言う。代わりに重視するのは、近隣の旧ソ連諸国を再統合して統一経済圏「ユーラシア同盟」を築くことだ。

 これで中国や欧州に対するロシアの交渉力は強まり、EUとの間で貿易を軸とした「地域対地域」の関係が築ける。キプロス問題の影響でその傾向は強まる一方かもしれないとロゴフ所長は言う。「今回の件でロシアはいっそう欧州に背を向けかねない」

By Neil Buckley and Charles Clover

(翻訳協力 JBpress)

(c) The Financial Times Limited 2013. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


キプロス、預金課税を再検討 富裕層限定で
    (2ページ)   2013/3/24 0:18 記事保存

http://www.nikkei.com/article/DGXNNSE2INK01_T20C13A3000000/

 【ベルリン=赤川省吾】キプロス政府は23日、対象を富裕層に限定する形で、銀行預金への課税の再検討に入った。キプロス議会は22日に危機対策として大手銀行を整理する法案を可決したが、これだけではユーロ圏が支援条件とする58億ユーロ(約7千億円)分の自主財源を確保できないため。一度は全預金者への課税を否決した議会の承認を取り付けられるかが焦点となる。    96958A9C9C8197E09B9C99E2E38DE0E1E2E1E0E2E3E1E2E2E2E2E2E2-DSXDZO5315632024032013FF8000-PB1-8.jpg

 欧州連合(EU)などと協議を続けるサリス財務相が23日、首都ニコシアで記者団に明らかにした。具体的には、最大手のキプロス銀行の10万ユーロ以上の大口預金から25%を徴収する案が浮上。19日に議会で否決された2万ユーロよりも課税対象を引き上げて、預金者の反発を和らげたい考えだ。

 同財務相はEUなどとの協議後、大口預金への課税について「議論している」と記者団に言明。「この税率が有効かはさらに協議が必要だ」と述べ、23日中にも議会で法案を審議できるとの見通しを示した。

 キプロスとユーロ圏は15日、深刻な経営不振に陥った銀行の増資資金を得るため最大100億ユーロ(約1兆2200億円)の資金支援で一度は大筋合意した。しかし「すべての預金者に課税する」などの条件を付けたため、キプロス国民が猛反発。及び腰になった議会は預金課税案を否決した。

 議会は代替案として、大手銀を整理して投入が必要な公的資金を圧縮するのに加え、年金基金などを活用した基金を設立して自主財源を確保することを決めた。

 それでも約束の58億ユーロは満たせないため、キプロス政府は預金課税の再検討を始めた。アナスタシアディス大統領は23日にブリュッセルを訪問。24日に予定するユーロ圏財務相の臨時会合に向けて各国の理解を求めながら、キプロス議会の承認手続きを進める構えだ。

 22日の代替法案採決ではアナスタシアディス大統領の出身政党、民主運動党(DISY)と右派の民主党(DIKO)が賛成して過半数を確保した。大口預金課税でも両党への根回しに注力しているとみられる。

 一方、ユーロ側にも強い要求を突き付けざるを得ない事情がある。最大の資金の出し手であるドイツは9月に連邦議会(下院)選挙を控える。メルケル首相の連立与党は1月の地方選で野党に敗れており、安易な支援は命取りになるためだ。

 ドイツには税金を使ってキプロス以外の富裕層まで救済することに抵抗感が強い。独メディアによるとメルケル首相は22日の与党会合で、キプロスの消極的な危機対応を強く批判した。

 足元の金融市場は比較的落ち着いた状況で、他のユーロ圏諸国もドイツの強い要求に異を唱えていない。スペインの10年物国債の利回りは4%台後半で推移しており、市場関係者も「キプロスは特殊事例」とするユーロ圏政府の説明を理解しているもよう。

 独紙フランクフルター・アルゲマイネによると、キプロスは銀行からの資金流出を防ぐため、大口の決済取引を凍結。国外への送金などは制限し、キプロス中銀が決済を1件ずつ認可している状態という。

 ただ欧州中央銀行(ECB)は、ユーロ圏の支援策がまとまらなければ26日に銀行の資金繰り支援を打ち切ると通告した。国外の投資家にはキプロスに見切りをつける動きも広がる。キプロスやドイツをはじめ関係国が国内事情ばかりを優先する姿勢を続ければ、「特殊事例」であるはずのキプロス危機が通貨ユーロ全体に波及する事態を招きかねない。

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